森の風鴬宿の帰り道、盛岡市に2001年に開館した岩手県立美術館に立ち寄りました。
無機質なグレーのコンクリートの直線と曲線の大空間の中に、グランドピアノがひとつ。
このセンスにまず衝撃を受けました!!
一体設計者は何者?
「日本設計」でした。
霞ヶ関ビルの設計チームが「山下寿郎」から分かれてできた設計事務所です。
柔らかな早春の日差しが天窓から差し込み、この美しい空間だけで
満足してしまいそうなエントランスホール。
時にはこのピアノの美しい音色を聞くこともできるのでしょうか。
そして、こんなにもダイナミックな空間で、
ピアノを弾けたらどんなに幸せな事でしょう。
本施設の骨格となる南北に長い大空間「グランドギャラリー」は、
地形と周辺開発市街地の軸線に呼応し、公園側の広がりを包み、
雄大な岩手山へ向って建てられています。
今日のお目当ては柚木沙弥郎( ゆのきさやろう )の作品です。
残念ながら作品は撮影禁止のためご紹介できません。
以前このブログ上で盛岡の光源社の敷地内にあるマジエル資料館の
柚木沙弥郎の賢治に捧ぐ型染絵をご紹介したことがありましたが、
それらとは全く違う世界でした。
もう一度、ゆっくり拝見させて頂きたい・・・そんな気持ちです。
展示室は、恣意的デザインを極力排除したシンプルな箱とし、
作品鑑賞への集中を妨げる無駄な線や影を最小化する工夫を行っています。
外気と接しない収蔵庫配置、東西の日射を極力避ける展示室の配置、
作品動線の単純化など、博物館建築の理想的な平面計画を追求し、
美術作品の保存環境に最適な空調計画としています。
Wall Drawing#2 アニアス・ワイルダー
画面を埋め尽くす地図の等高線のような曲線の連なり。
波を表現しているこれらの線は、時にダイナミック、時に穏やかな
カーブでたんたんと引かれていますが、遠くから見ることで
大波のうねりだとわかります。
計算された線描は下書きもなしに、一本一本が大変な集中力をもってひかれました。
アニアス・ワイルダー(1967- )は、94年にエディンバラ美術大学大学院彫刻科を終了後、
イタリアやノルウェー、カナダ、オランダなど世界各国で制作活動を続け、日本でも、
98年の岩手を皮切りに、京都、東京、青森、名古屋等各地で滞在制作を行ってきました。
所蔵品は萬鐡五郎、松本竣介、舟越保武の作品が中心となっており、
それぞれの個人展示室が用意されています。
聖クララ ・ 船越保武
アッシジの聖フランチェスコ寺院を舟越が訪れた時のこと。
寺院を出た途端、俄かに夕立となり、彼は近くの回廊の軒下で雨の上がるのを待っていると
一人の若い修道女が飛び込んで来た。
その人は少しうつむいて石畳を打つ雨足を見ていたという。
「この世の人とは思われないほど美しい人だった。私はその横顔を記憶しておこう、と思った」
と彼はエッセーに記している。
その横顔の人が《聖クララ》になる。
しかしその人は幻影のようであったとも仄めかしている。
記憶により彼は聖クララとしてその人のデッサンを何枚も描く。
聖クララ(1194頃-1253)はアッシジの貴族の娘でフランシスコ会に入会、
清貧を理想としてクララ女子修道会を創設。
また、イスラム教徒からアッシジと修道院を守ったと伝えられフランシスコ会の守護聖人とされる。
《聖クララ》は長崎の諫早石という砂岩に彫らる。
その素直な石質は彫刻家を石工にでもなったように感じさせたそうです。