ようこそ「天女花フォトギャラリー」へ  このブログはふるさと弘前の四季と東北の温泉を紹介しております。

賢治さんの香りと心を求めて     パートⅤ

ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。
上手でないどころでなく実は仲間のなかで一番下手でしたからいつも楽長にいじめられるのでした。

昼過ぎみんなは楽屋に丸く並んで今度の町の音楽会へ出す” 第六交響曲 ”の練習をしていました。

にわかにぱたっと楽長が両手を鳴らしていいました。

「 おーいゴーシュ君。君には困るんだがなぁ。表情というものがさっぱり出ていない。
怒るも喜ぶも感情というものがさっぱり出ていないんだ! 」

ゴーシュはみんなが帰ってあと、口をまげてボロボロ涙を流しましたが気を取り直して、
今やったところをはじめからもう一度弾きはじめました。

その晩遅く、ゴーシュは自分の家へ帰って行きました。
家といってもそれは町はずれにあるこわれた水車小屋で、ゴーシュはそこにたった一人で住んでいました。

「 今日は先生のセロを聞いてあげに来ましたよ 」

ゴーシュは昼からのむしゃくしゃをいっぺんに怒鳴りました。
「 何だと!!いつも俺の畑を荒らしているばかりか、生意気にもセロを聞いてあげるだと!」
と言うと何を思ったのか、いきなり嵐のような勢いで「 インド虎狩 」という曲を弾きだしました。

ものすごいセロの音に猫はびっくりしてどんと扉へ体をぶつけ、目からパチパチ火花を出してあわてて
飛び出していきました。
             

次の晩は一匹のかっこうがやって来ました。
「 先生、ドレミファソラシド を教えて下さい 」
ゴーシュはしかたなくセロを弾いてあげることにしました。

ところがしばらく弾いているうちに、ゴーシュはふっと何だかかっこうの方が上手なような気がしてきたのです。
「 えいっ!こんなバカなことをしていたら、俺は鳥になってしまう 」
ゴーシュはそう思ってぴたりとセロを弾くのを止めました。

                 

「 なぜやめたんですか 。僕らはどんな意気地なしでも、喉から血がでるまでは叫ぶものです 」
「 黙れ!いい気になって。見ろ、もう夜が明けるじゃないか 」
ゴーシュがものすごい剣幕で怒鳴ったので驚いたかっこうは、急いで家から出ようとして、ガラスに頭を
ぶっつけてしまいました。
ゴーシュは思わず足を上げて窓をバッと蹴り、かっこうを窓から出しました。

 

その次の晩は一匹の狸の子がやって来ました。
ゴーシュは結局セロを弾くことになりました。
狸はセロに合わせて、セロの駒の下のところをポンポンと叩いていましたが、終わりまで弾くと言いました。
「 ゴーシュさんはこの二番目の糸を弾くときは少し遅れるね 」
「 いや、そうかもしれない。それはこのセロが悪いんだよ 」とゴーシュが悲しそうに答えました。

次の晩は、明け方近く、野ねずみの親子がやって来ました。
「 先生この子が病気なのです。
  ここらのものはみんな病気になると先生のお家の床下に入り込んで治すんです。」
「 ああ、そうか。おれのセロの音がゴウゴウ響くと、それがあんまの代わりになってお前たちの
  病気が治るんだな 」
そういうと、ゴーシュはねずみの子をセロの孔から中に入れてセロを弾きはじめました。

                         ( 中略 )

「 あぁかっこう、あのときはすまなかったな。
おれは怒ったんじゃなかったんだ 」

                         お し ま い

宮沢賢治童話「 セロ弾きのゴーシュ 」の物語が粘土で表情豊かに造られたお部屋です。
この物語の最大のテーマは人間と動物との係わりでしょうか。
動物たちはゴーシュによって病気を癒され、ゴーシュは動物たちの助けでセロが上達。
その結果、ゴーシュは楽団仲間を始め、人間の世界でも一目置かれるようになります。
動物との助け合いがゴーシュを人間的に成長させる賢治童話の世界。
三歳の孫にも読み聞かせしたい一冊です。